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水の環境戦略 (岩波新書)

水の環境戦略 (岩波新書)

出版社 岩波書店
著者 中西 準子
発売日 1994-02

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Amazonレビュー

本書は上下水道や工場排水処理のあり方をリスク管理の視点から論じている。
本書のほとんどが上水道の水質管理について書かれているが、私が印象に
残ったのは「流域下水道という発想そのものが誤りである」ということだった。
流域下水道とは複数の市町村にまたがるような大規模な下水道のことだが、
これはコストがかかりすぎる上、汚水を地下にもぐらせて下流(多くの場合、
海周辺)の処理場で処理することから途中の河川で再利用できず、また河川
の水量も減ってしまう。即ち貴重な資源である水が循環しないのでダメなのである。
また工場排水は下水道に排出せず工場が自前で処理し河川に放流すべきとのこと。
今まで気づかなかったが良く考えれば当たり前だ。工場排水中の有害物質
が入ってしまえば下水道処理水や汚泥が再利用できない。
筆者は市町村ごとに小規模な下水処理場をつくり、浄化水を河川に戻すことを主張している。
また昔合併浄化槽の個人設置が禁止されていたことは本書で知った。なぜだろう?
現在は逆に単独浄化槽が新規設置禁止となっている。今でも約500万基が使用されているが。
本書は今から15年も前に書かれたものであるが、述べられていることには未だに新鮮さが残っている。フェーズルールと呼ばれる著者独自の考え方は環境問題を考える上で非常に有益だ。トリハロメタン、テトラクロロエチレン、ジクロロアセトニトリル等といった、専門な言葉もどんどん出てくるし、読みやすいものでは無いが、豊富なデータに基づく著者の主張は説得力がある。リスクマネージメントの考え方を述べた章は特に面白い。
印象に残った言葉がある。「自然という危険の中で生きているということを出発点にしなければならない。自然がもっているリスクをある程度許容しなければ、自然と共存できない。」「絶対安全というのは存在しない。安全とはbenefitに比べてriskが少ないという意味。」なるほど。絶対安全という幻想を捨て去って、自然を超克することをあきらめる必要がある。人類は有史以来、自然に挑戦し続けた。自然を操れると信じてきた。でもそれは幻想に過ぎない。結局人類も自然の一部分に過ぎないわけだ。著者の「人間の科学の限界」という言葉が全てを表している。
『環境リスク学』の著者、中西準子氏の岩波新書。河川水の利用と汚染について、現状の体系的な記載と整合性のある提案を行った良書である。『環境リスク学』に比べると、データが詳しく提示してある分多少煩雑であるが、テーマに沿った著作であるので、仕方のない所であろう。むしろ、内容の確かさを保証するものとなっている。その分は多少飛ばして読んでも、著者の主張は明白で説得力がある。

著者は、まず、環境対策を、便益と環境保全の2軸の平面で考えて、それぞれが正と負の4つの象限のどれに当たるかを総合的に考える所から始めようと提案している。環境問題と言うと善悪の2値がクローズアップされる現状から考えると、これだけでも大変な進歩だ。河川管理、上水道の水質管理、下水道の設計などで行われている様々な環境対策を、この平面で分類することで、解説しているのは分かりやすい。そうすることで、リスクコントロールに議論をスムーズに持って行っている。

最終的な結論は、どのような水質管理もリスクがあるのだから、一つのリスクにばかりヒステリックにならずにリスクの総和が最小になるように対策を立てましょうと言う、基本的には『環境リスク学』で述べられていた内容を「水」を例にとって述べたものである。ただ、リスクを完全に把握することは出来ないのだから、とりあえずの最良見積もりで行動すべきだと主張しているのが、もう一歩踏み込んでいるように見える。

BSE 問題でも、強度偽装マンション問題でも、この視点さえあればあれほど紛糾する話でもないのにと思うと、このような冷静な思考が広がる事を期待するのは百年河清を待つようなものだと、暗澹たる気持ちである。
新書の棚の左から無作為に20冊買ったなかの1冊。
で、結論をいうと、あたり!である。

人口の増加、工業発展、途上国の開発などによる
水不足や水質汚染がいわれて久しいが、
本書は、資源量の観点、循環利用の観点、水質基準の観点から
水資源利用の現状を検討し、リスク管理の重要性を説いている。

夏の渇水時期でも農業用水路にはとうとうと水が流れている。
田舎ではよく見られる光景なので別段不思議に思ったこともなかったが、
水道が給水制限をしているのに、なぜ用水路には水があふれているのか。
確かに妙だ。
これは利水権を適切にコントロールできていないことが原因であるという。
水不足の原因は実は絶対量の不足ではなく、利用効率が最適化されていないことによる、
という事実をはじめて知った。

また水質基準の章では、有害物質の基準値の決め方が非常に難しいことも知った。
例えば、水道に含まれるある有害物質の許容量を決めるのに、
発ガン率が10万人に1人、というレベルにするとしよう。
この基準値を実験で測定する為に必要な実験動物はなんと600万匹。
費用も1兆円を超えるという。
従って、現在の基準値は推定値。
誰も直接証明していない。あくまでも仮説なのである。

書名の「水の環境戦略」はなじみのない言葉だが、
単に企業や行政の不備を告発するということではなくて、
上手にリスクをコントロールしながら、
人間の活動と水資源の保護を両立させるための戦略を考えよう、
ということである。

新書の醍醐味は、その道の専門家による一般向けの啓蒙にあると思うが、
その意味で本書は新書の王道をいくものである。
環境問題に関心をお持ちのかただけでなく、
この方面にまったく興味も知識のない方にも、
純粋に知識欲を満足させられる一冊としてお勧めできると思う。
”地域環境問題”と”地球環境問題”との違い。
塩素消毒とオゾン消毒を用いた水道水。
水道水のリスク管理。
水利権と渇水問題との関連性。

一部の利権を守るためだけに、どれだけの犠牲が生じていたのか。
意識を改める必要性を感じました。