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ドストエフスキーの人間力 (新潮文庫)

ドストエフスキーの人間力 (新潮文庫)

出版社 新潮社
著者 齋藤 孝
発売日 2008-05-28

この本に関する書評

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Amazonレビュー

これは同著「過剰な人」の改題。
だぶることのないよう注意。
自分はまだ一通りドストエフスキーの著作に目を通しただけで、深く読み込んで
彼が伝えようとした思想・哲学・倫理・ヒューマニズムetcについて自分なりにきちんと
理解できている、とは到底言えない立場です。しかし、そういった初心者的立場の人から
みたら、本作は深きドストエフスキー世界に対する解釈を試みる際の次なるステップへの足がかりになるようなものなのではないか、と思いました。
もちろん長年のドストエフスキー愛読者にとっては、本作のように、
ある意味では表面上の単純な解釈をされることに思わず腹をたててしまうこともあるかもしれませんが…

実際、まだまだ初心者に等しい私が読んでみての感想としては
「やっぱり、ドストエフスキーは奥が深そうだ、こりゃ改めて再読しなければ!」
といったものでした。
ドストエフスキーは読んでみたけど何だかよく分かんないや、というような人にとっても、
本作を読むことによって、だいぶドストエフスキー作品に対する
アレルギーみたいなものは取り除かれるのではないでしょうか。

以上、個人的な感想でした。

ドストエフスキーを愛読する一人の人間としては、
これを読んで正直怒りを覚えました。

すでに他の方が指摘していらっしゃるので詳述は避けますが、
結局は自分の持論に都合のいい部分をドストエフスキーから拝借しているだけ。
いうなれば、ドストエフスキーをダシにした齋藤氏の啓発本とでもいうのでしょう。
日頃斎藤氏が繰り返している安っぽい啓蒙論はそこかしこに氾濫している一方、
ドストエフスキーに関する優れた批評や観察眼は皆無に等しいです。

あと、美しい日本語なるものを日頃から提唱する方が、いいかげん
「人間力」のごとき醜悪な造語を広めるのはやめて下さい…。
ストーリーの読解には一切触れず、人物像に焦点を絞った本です。
齋藤さんの人物像の焦点のあわせ方は、すごい。の一言に尽きます。
もちろん物語の表ににじみ出ている独特の人間描写はドストエフスキー
のすごさですが、その登場人物一人一人に焦点を当てて、深く掘り下げ
るというのはなかなか斬新でした。

特に地下室の手記の主人公に自分がなんだか似てる。
なんて思いながら読んでましたので、なんだか自分自身を分析されてる
ような、照れくさく、恥ずかしい気分にもなれ、また新しい気持ちで作品
を読んでみようと思いました。
私は亀山郁夫のドストエフスキー解釈にどこか物足りなさを感じていた。
と言うのも、ドストエフスキーを読んだときの私の内面から突き上げてくるような興奮を、彼自身が本当に味わったのかどうかに疑問を感じていたからだ。彼の解釈からはそのような実感が伝わらなかった。
本書を読んでその理由が氷解した。
彼は学者である以上、アカデミックな語彙を使ってドストエフスキーを読み解くのが務めなのである。であるがゆえに、個人的な興奮体験と作品解釈との間に一定の距離をとらねばならなかったのだ。
齋藤氏による本書はアカデミックな本ではない。
だから、「ドストエフスキー作品の登場人物は『過剰な人』ばかりであり、悪臭を放つチーズのように癖は強いが一度味わうと病みつきなる魅力がある」と平易な日本語で説明する。
であるがゆえに、ドストエフスキーを読んだときの「あの興奮」が呼び覚まされる。
喩えるなら、亀山氏の解釈は「最新電子レンジで低カロリー設定で焼かれた油分少なめのステーキ」であり、
齋藤氏のは「血が滴るような生肉」の語りである。
無論、どちらにも良さがある。
ただ、本書の巻末に亀山氏が書いた解説で、彼は齋藤氏のドストエフスキー解釈を評する時に「生肉」の顔を現す。

少々、いきんだ言い方になるのをお許しいただこう。何よりも、一種の憑依状態から繰り出される言葉の輝きであり、同期と異化の絶えざる往還であり、道化役に徹するアイロニーの切れ味であり、それらが一瞬のうちに反転し、目から鱗、胃の腑にすとんと落ちる箴言の数々である、と。(引用ここまで)

ま、私にしてみたらこれでもまだまだいきみ足りないとは思うが、学者が一人の熱いドストエフスキーファンに戻って語っているように感じた。学者という立場上、個人的な感情は日々抑え込んでいなければならない。そういう意味で、縛りのない齋藤氏の天真爛漫なドストエフスキー解釈を亀山氏はちょっと羨ましがっているのかもしれない。

いずれにせよ本書を通過した事で、次から安心してアカデミックなドストエフスキー本に進める。さらに奥深い味わいはきっとそこにあるのである、チーズのように。