書評
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妻アルシアの深い「ヒューマニズム」に感動!
この実話は、ジョン・ナッシュという稀れにみる天才的な数学者が30歳を境に
して30年間以上、遺伝性の重症な「精神分裂症」に苦しみながら、ついに奇跡
的にその難病から回復してまもなく、彼が20代に発見した「ゲーム理論」の経済学への多大な貢献が評価されて、ついにノーベル経済学賞までもらうという、ハッピーエンド映画の原作である。
(高等数学も経済学もわからないごく粗朴な生物学者である)私が最も感銘したのは、彼の偉大さではなく、彼の妻となったアルシアというインテリ女性の彼に対する並々ならぬ献身である。エル・サルバドル生まれの良家の娘だった彼女は、物理学者をめざして米国のMITで就学中、彼女の数学教師であるナッシュ教授に惚れ込んでしまい、結婚にゴールインする。ところが不幸にして、まもなく彼に凶暴性を帯びる「精神分裂症」の発作が現れ、精神病院に2、3度隔離する必要性さえ出てきた。折しも、彼女は彼の息子(ジョニー)を妊娠中だった。
2、3年後、彼女はナッシュとはもはや正常な結婚生活が無理なことを悟って、一旦彼と離婚手続きをする。しかしながら、病める夫を世話する者が誰もいないことを知って、彼女は以後30年以上、彼を自宅に同居させ、生活の面倒をひたすらみ続ける。そのおかげで、彼は重症な「精神分裂症」から奇跡的に自然治癒することができる。
離婚した夫に対して、いわゆる「愛」を感じなかっただろうが、彼女の心には(夫を何とか助けてやろうという)深い「ヒューマニズム」が溢れていた。その「美しい心」に私は痛く感動した!
天才ナッシュの実像に迫る
ゲーム理論に魂を吹き込んだ男=天才ナッシュの伝記です。アカデミー賞映画『ビューティフル・マインド』の原作として有名な本書では、映画では触られていないエピソードや事実が満載なので映画を見た方でも違った視点で楽しむことができます。
(ナッシュの引き起こした様々なトラブルが載っているのでショックを受ける方もいらっしゃるかもしれませんが・・・)
今年はナッシュ80歳の節目の年です(まだご存命です!)。未読の方はこの機会に本書を通じて生きた天才ナッシュの実像に迫ってみてはいかがでしょうか?
話は興味深いが訳が最悪
話自体は大変興味深いものです。しかし訳者が大変不勉強です。
最大の過ちは何といっても本書の表題である"a beautiful mind"を「美しい心」と訳していることでしょう(「訳者あとがき」)。"mind"とは感情の働きとは異なる、理性による論理的思考のことです。アメリカ人は"heart"(心)というとき、胸を指しますが、"mind"というときは頭を指します。したがって本来これは「優れた頭脳」、「優れた思考」とでも訳されるべき言葉です(たとえばロースクールで教えられるところの"legal mind"は「法律的思考」と訳されます)。
普通の日本人にとって"mind"と"heart"という言葉の区別はつきがたく、多くの人が"a beautiful mind"を「美しい心」と間違って解釈していると思います。プロである翻訳家はそれを改めるだけの技量があってしかるべきです。
また本書はアメリカの大学に関する記述が多いにも関わらず、訳者はアメリカの大学制度に関する知識も持ち合わせていません。「教養課程が最もすぐれた大学のひとつ、アマースト大学」(p-516)というのも、訳者が"liberal arts college"と総合大学との違いを知らないことを物語っていますし、"University of Wisconsin"を「ウィスコンシン州立大学」と訳すのも、訳者がアメリカの"University of 州の名前"と"州の名前 State University"の違いを理解していない証左です(訳者はたとえば両方とも州立である"California State University"と"University of California"をどう訳し分けるつもりでしょうか)。
ということで話は面白いのに、時折現れる変な訳が気になってとことん楽しめない作品です。
内容は星5つ
ページ数も多く、非常に読み応えがある本でした。
見事な肉体に優れた頭脳。
でも、学問的業績を別にすれば、あまりに幼稚な人間であった
ように思います。
精神分裂病であった時代、数霊術にこったとの話に、
ニュートンの晩年の話を思い起こしました。
ナッシュの件もあの時代では異常とはみなされなかったかも
しれないんじゃないかと。
個人的に一番面白かったのは、ナッシュへのノーベル経済学賞
授与の裏話でした。あまり、語られることのない話ですからね。
訳は、門外漢の私が原文を参照するまでもなく
「ああ、ここはこういう単語の意味をあれと取り違えているな」
と分かるような間違いもある上に、文脈が通じない所も多く、
はっきりいって読み辛いです。
行方昭夫先生に診てもらってはどうか、と思いました。
事実は映画より。。。
高等数学、経済理論、精神医学、戦後アメリカ政治、どれも一般受けする内容ではありません。主人公自身、はじめは冷酷でスキャンダラスな、親しみの持てないエリートとして描かれます。しかしこの本は、これら全てをある程度理解する知性と、世界中の関係者に充分取材する行動力がなければ執筆できません。一流紙の記者とはいえ、著者ナサー氏が払ったであろう膨大な努力に頭が下がります。おそらく著者には、現在のナッシュ氏がさぞや魅力的な人物に映ったのでしょう。何か原動力がなければ、ここまで密度の濃い伝記は書けないはずです。
そして、現在のナッシュ氏の寛大さにも敬意を憶えます。よって☆5つです。不祥事さえ赤裸々に描いたにもかかわらず、本人現役中(存命中じゃありません)に発表できたのは驚くべきことです。日本版あとがきによれば、ナッシュ氏は内容を讃えてさえいます。不祥事を書かれてあえて讃える有名人など、他に何人いるでしょうか。まして映画化などもっての他です。氏という回復例の存在は、同じ病に苦しむ人々にとって大きな希望である事は疑いありません。その事を自覚しているから、数学と関係のない不祥事やプライバシーに関してさえ、氏は公表を認めたのでしょう。
(ちなみに映画版でナッシュを演じたラッセル・クロウは、若き日の氏の雰囲気をうまく伝えています。それもこの本の写真で分かります)
一個人の伝記でありながら上記の全てが関わってくる上に、下は便所の破廉恥罪から上はノーベル賞受賞まで、毀誉褒貶の人生が600ページ。読みどころは人それぞれで、きっと数学史や経済学史としても読めるのでしょう。
私は、粘り強い闘病記、または傲慢だった天才の人格成長記として読みました。特にナッシュ氏と同年代の患者を身内に持つため、氏の治療法と20世紀精神医療の発展史に深く興味を覚え読み進めました。経済記者の著者には畑違いのはずですが、病気の描写と説明は的確で信頼が置けます。医療史としての史料価値は高いと言えます。翻訳者も苦労されたでしょうが説明は的を得ており、当時の雰囲気も人物も、生き生きと良く伝わってきます。なお、氏が受けた治療とそれへの意見はそのまま参考にはできません。今の精神医療は、当時より遥かに安全で効果の高い薬物療法が主流ですし、治療には当然個人差があるからです。