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鉄の時代 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-11)

鉄の時代 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-11)

出版社 河出書房新社
著者 J.M. クッツェー
発売日 2008-09-11

この本に関する書評

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Amazonレビュー

「この土地のうえを、この南アフリカを歩いていると、だんだんいくつもの黒い顔のうえを歩いているような気がしてくるのよ」(150p)。
主人公である白人の老婦人がつぶやいたこの台詞が、アパルトヘイトを象徴しているような気がします。
このご婦人はガンを告知されてしまい、娘に遺書を残します。その遺書がこの作品の本文に当たります。
体制に抗おうとする子供達の悲惨な結末が描かれるなど、決して明るい話ばかりではありませんが、
アパルトヘイト下のアフリカに真っ向から向き合ったメッセージ性の強い作品です。
池澤夏樹氏編集の世界文学全集の1冊。
クッツェーの小説は初めて読む。名前は知っていたが、ノーベル文学賞受賞とか言われるとかえって読む気がなくなるという天邪鬼な性格のせい。
南アフリカのアパルトヘイト末期を舞台に老婦人の娘への手紙という形式の小説。
甘ったるい感傷的なところは全くなく、全体を貫く「怒り」、この世の不条理さを訴えるような文章は、読むのが辛いぐらいだった。でも、読むのが止められない。
ありきたりの表現だけど、人間の尊厳とは何かを考えさせられた。
翻訳も良いし、クッツェーの心理描写はとても奥深く生き生きしています。
主人公カレン(70歳・末期の癌で死が近いことを知った)の葛藤や迷いが物語りの大半を占めています。途中、ドライブに出かけたり他の登場人物との会話もありますが、この本はカレンがアメリカに住む娘宛に書いた遺書ということもあり、彼女の過去/現状/未来に対しての自問自答が延々と繰り返される。池澤夏樹氏の「ぼくがこの作品を選んだ理由」に、「差別は全ての国、全ての社会にある。しかしその心理をたいていの人は理解していない。」と書いてあったのを見て、アパルトヘイトや南アフリカの境遇について触れているのかと期待して購入しましたが、実際はカレンの不安や怒りについて書かれている部分が多く、社会派フィクションを期待していた自分には文化的バックグラウンドや物語の展開が浅く少々期待外れでした。アパルトヘイトに関して、というより死を間近にしたカレンに押し寄せる不安、欲、正義感等についての物語と感じました。
また、他のレビューにもありましたが、個人的にこの主人公に感情移入し難く彼女の煮え切らない思いや、一人でひたすら叱責する様子は、魅力的とは思えなかったのも残念です。むしろ浮浪者のファーカイルの方が面白く柔軟な人物でした。
結果として星3つという厳しい評価になってしまいましたが、さらっと読み進められる良い文体でした。
アパルトヘイト末期を舞台にした作品。アパルトヘイトのシステムとかは学べないけど、それがどれだけ酷いものだったかはよくわかりました。「事実は小説より奇なり」というから、実際はもっとひどかったんでしょう。
誠実でいようとするほど侮蔑され、暴力をうける主人公を見ていると、正義とか倫理とかってなんだろう、そんな素朴な問いがまた浮かんできました。
自分が同じ場所にいたら、どうしていただろう。誠実でいられるかどうか自信がない。
とにかくリアルで、悲しいお話でした。
ただ・・・ただ、登場人物に魅力が無い。不安焦燥が募ったおばあちゃんと、何を考えているのか分からない男とお手伝い。その分感情移入しづらかったです。それが残念。
すばらしい本だと思います。
何より本書が、そしてくぼたのぞみさんの訳も。
文章に無駄がなく、透徹したまなざしで、人の心の動き、世界のありようを淡々と見ている。小説はまるで水晶のように、美しく、悲しい。
興味がある人には是非呼んでほしいと思います。私はこのシリーズをずっと読んできましたが(全てではないですが)、クンデラとこのクッツェーの作品が一番よかった、そう思います。