人間を狂気に駆り立てる戦争への怒りの書。
現代イギリスを代表する児童文学作家モーパーゴの戦争をテーマにした渾身の一作です。本書は第一次世界大戦の激戦地として知られるベルギーの町イーベルの「フランダース戦場博物館」に今も残る史実の記録を基に書かれています。作者が90年代後半に訪れた時に衝撃を受けたのは、臆病行為(脱走)の罪によって銃殺刑に処せられたイギリス人兵士の写真でした。その裁判は1件当り20分程度で判決が下され、処刑は味方の兵隊によって執行され、遺骸が埋められたという事です。この事実に対する怒りが、作者に筆を執らせる決意を抱かせました。物語はイギリスの田舎に平和に暮らす、知的障害のジョーにいちゃん,チャーリー,トモの3兄弟・近所の娘モリーの幸福な少年時代で幕を開けます。平和を愛し勇敢でも無かったチャーリー,トモも、やがて戦争の渦に巻き込まれ、否応無しに兵士として駆り出されます。戦地で経験した毒ガスや爆撃による幼馴染の友達の死は、トモの神経をズタズタにしてしまい、また味方の軍曹の中にもシゴキを楽しむ憎むべき奴等がいるのでした。そして激戦の中で、思いも寄らない過酷な運命が兄弟に襲い掛かるのです。
人間を狂気に駆り立ててしまう戦争の中で、平和な思い出を胸に抱いて心の支えにしている優しい青年を主人公に配し、無力だけれど非道な運命に抗って懸命に生きた青春を描いて、戦争の愚かさを強く訴えかける迫真の書だと思います。